さぐりさぐり、めぐりめぐり

借り物のコトバが増えてきた。

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巡礼は歩く瞑想。『星の巡礼』(パウロ・コエーリョ)より

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「人生で最高の一冊は?」という質問をされたとき、ぼくは迷わず回答できる。
 

アルケミスト

とあるブラジル人作家が書いた約200ページの冒険小説である。世界中で6,500万部発行され、世界で5本指の小説の一つとして数えられるほどの名作である。

「これは自分宛に書かれたものではないか!どうして?」

 

そんな不思議な感想を世界中の人々が抱いてしまうのが『アルケミスト』だ。以前残したアルケミストについての記事は以下。

 

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22歳、インド・ゴアで初めて読んでからいったい何度読み返しただろう。次第にぼくの関心はこの物語の書き手パウロ・コエーリョへと向けられた。


「こんな素敵な物語を書く人はいったいどんな人生を送ってきたのだろうか?」


略歴をWikipediaから引用したい。

ブラジルのリオ・デ・ジャネイロに生まれる。大学の法学部に進学するも、1970、突然学業を放棄して、旅に出る。メキシコペルーボリビアチリを経て、ヨーロッパ北アフリカにも足を伸ばす。2年後、ブラジルに帰国して、流行歌の作詞を手がけるようになり、人気歌手ラウル・セイシャスに詞を提供する。また、グロリア・ゲイナー I will survive の歌詞をポルトガル語に翻訳、ブラジル歌手のヴァヌーザがこれを歌った。1974、ブラジルの軍事独裁政権に対する反政府活動に関与との嫌疑を受け、短期間投獄される。

その後、しばらくレコード制作を手がけるが、1979、再び仕事を放棄して、世界を巡る旅に出る。1987、『星の巡礼』(O Diário de um Mago)を執筆刊行して、作家デビューを飾る。これは彼がスペインサンティアゴ・デ・コンポステーラへいたる巡礼の道を歩いた体験を下敷きにしたもの。この本はあまり大きな成功をもたらさなかったが、翌年の1988に出版した第2作『アルケミスト - 夢を旅した少年』(O Alquimista)はブラジル国内で20万冊を超えるベストセラーとなり、38ヵ国の言語に翻訳された。2007年のアンデルセン文学賞など、世界中の国々から様々な文学賞を受賞している。

現在、妻のクリスティーナと共にリオ・デ・ジャネイロに在住。

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ここにもある通り、数々の旅の中でもサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路の旅が彼の人生に一際大きな着想をもたらしたと言える。そこで、今回は彼の処女作『星の巡礼 (角川文庫)』より印象的な言葉を紹介したい。この作品は2作目の『アルケミスト』が知られるまではほとんど売れなかったそうだ。


アルケミスト』よりもスピリチュアルな色が強い作品ではあるが、やはり物語の中に多くの真理が含まれている。なおかつ、空想上の物語ではなく、パウロ・コエーリョ自身の体験がベースになっているのが特徴だ。実はぼくは、パウロ・コエーリョをきっかけにサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路を歩いたことがある。巡礼路の紹介も併せてその世界に惹き入れたい。
 

サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路~Camino de Santiago~         

巡礼者の垂訓

  1. 巡礼者は幸いである。巡礼が見えないものにあなたの目を開くならば。
  2. 巡礼者は幸いである。あなたが最も気にしていることが、ただたどり着くことではなく、他の人と一緒に目的地に到着することであるならば。
  3. 巡礼者は幸いである。巡礼を観想し、それが名前と何か新しいものの始まりで満たされていることを見出すならば。
  4. 巡礼者は幸いである。あなたのリュックが空っぽになり、心が静けさと生命で満たされるならば。
  5. 巡礼者は幸いである。一歩戻って誰かを助けることの方が、わき目をふらずにただ前進することよりも、はるかに価値あることだということを見出すならば。
  6. 巡礼者は幸いである。全ての予想外の驚きに対して深い感謝の気持ちを表現する言葉を持たないとき。
  7. 巡礼者は幸いである。ただあなたが巡礼をするのではなく、巡礼にあなたを変えさせるならば。
  8. 巡礼者は幸いである。道々、真の自分に出会い、立ち止まり、見つめ、聴き、自分の心を大切にすることを知るならば。
  9. 巡礼者は幸いである。真理を求めて、巡礼を、道であり、真理であり、生命である方を求める、「生命への道」にするならば。
  10. 巡礼者は幸いである。あなたは巡礼が終わった時に本当の巡礼が始まることを知るのだから。

サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路 巡礼者の垂訓より)

 

フランス人の道~Camino de Francis

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世界に3つあると言われるキリスト教の聖地の一つであるスペインの北西端の都市サンティアゴ・デ・コンポステーラ。(他2都市はローマとエルサレム)厳密に一つの定められた道があるわけでない。1000年以上も前からキリスト教徒たちは聖ヤコブの遺骸があるとされるそのガリシア地方の都市を目指して歩いてきた。

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いくつかメジャーなルートがある中でもっとも王道なのが、フランス人の道と呼ばれるコース。フランス南端、ピレネー山脈の麓にあるサン・ジャン・ピエ・ド・ポーという名の小さな街からピレネー山脈を超えスペインに入り、牛追い祭りで有名なパンプローナ世界遺産に登録されたゴシック様式の大聖堂のあるブルゴス、どこまでも続く半砂漠地帯メセタ、ステンドグラスの美しい大聖堂のあるレオン、いくつかの峠を超え、一年を通して多雨な聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラに至るルートだ。


詳細はこちらを。

 

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このフランス人の道は計780キロの巡礼路すべてが世界遺産に登録されている。
5~10キロに一つ村や街があり、そのほとんどにアルベルゲと呼ばれる巡礼者用の宿がある。大抵が5~10ユーロ、中にはドナティーボと呼ばれる寄付制の宿もあって夕食や朝食まで振舞われることもある。


もともと敬虔なキリスト教徒にとっての人生最大の宗教的行事として位置付けられていたが、現在ではキリスト教徒というカテゴリにとどまらず世界各国からスピリチュアルな道として、またエクササイズという名目など多様な目的をもってやってくる。

星の巡礼』(パウロ・コエーリョ)より

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30日間の巡礼期間に33カ国からの巡礼者に出会った。美しい一つひとつの体験をなんとか書き残さなければという想いをずっと持っているが、ここではパウロ・コエーリョの作品からの引用で巡礼路への想像を馳せてもらいたい。

 

「旅に出る時は、われわれは実質的に、再生するという行為を体験している。今まで体験したことのない状況に直面し、一日一日が普段よりもゆっくりと過ぎてゆく。ほとんどの場合、土地の人々がしゃべっている言葉を理解することができない。つまり、子宮から生まれてきたばかりの赤子のようなものなのだ。
だから、まわりにあるものに、普段よりもずっと大きな重要性を感じ始める。生きるためには、まわりのものに頼らねばならないからだ。困難な状況におちいった時、助けてくれるのではないかと思って、他人に近づこうとするようになる。そして、神が与えてくれるどんな小さな恵みにも、そのエピソードを一生忘れることがないほどに大感激したりするのだ。

同時に、すべてのものが目新しいために、そのものの美しさしか見ず、生きていることを幸せに感じる。だから、宗教的な巡礼は、常に悟りを得るための最も実際的な方法の一つとされているのだ。

 

「君が今歩いている道はパワーの道であり、パワーに関係ある実習だけが教えられる。到着することだけしか望んでいなかったがために、これまで君にとって苦しみであったこの旅は、今から喜びとなり始める。それは求める喜びであり、冒険の喜びでもある。

君は非常に大切なもの、すなわち、君の夢を大きく育んでいるのだ。われわれは夢見ることを決してやめてはならない。夢はたましいに栄養を与える。それはちょうど、食事が体に栄養を与えるのと同じだ。われわれは人生で何度となく、自分の愛が打ちくだかれ、失望する時を体験する。しかし、それでもわれわれは夢を見続けなければならない。そうでないと、われわれのたましいは死に、アガペはたましいに達することができなくなる。」

 

「われわれの前に広がるこの大平原で、これまで多くの血が流されてきた。ムーア人を追い出すための最も熾烈な戦いのいくつかもここで行われた。誰が正しく、誰が真実を知っていたかは問題ではない。大切なのは、そのどちら側も良き戦いを戦ったということを知ることなのだ。良き戦いとは、われわれの心が、そう命じるがためにわれわれが戦う戦いのことだ。英雄たちの時代、つまり、よろいを着た騎士の時代には、これは簡単なことだった。征服をし、多くのことを行うための土地があった。

しかし、今日では、世界はすっかり変わってしまった。そして良き戦いは戦場から、われわれ自身の内へと移行したのだ。良き戦いとは夢のために戦われる戦いのことだ。われわれが若く、夢が初めて内側からはじけ出す時には、われわれはこの上なく勇気に満ちている。しかし、まだどう戦えばよいのか、その方法を学んでいない。努力に努力を重ねて、われわれは戦いの方法を学ぶが、その頃には、すでに戦いにおもむく勇気を失ってしまう。そこでわれわれは自らに背き、自分の心の中で戦い始める。つまり、われわれは自分自身の最悪の敵になるのだ。そして、自分の夢は子どもじみていて、難しすぎて実現できない、人生を十分に知らないせいだと言い聞かせる。良き戦いを戦うのを恐れて、自分の夢を殺してしまうのだ」

 

「自分の夢を殺すと、まず最初に時間が足りないという症状が現れる」とペトラスは続けた。「最も忙しい人たちは、人生には常に、あらゆることをするに十分な時間があることを知っている。何もしない人たちはいつも疲れていて、やらなければならないほんのわずかな仕事にも、注意を向けようともしない。彼らは絶え間なく、一日は短すぎると文句を言っている。本当は良き戦いを戦うのを怖がっているのだ。夢の死による二番目の症状は、われわれの確信の中に現れる。人生を偉大な冒険として見たくないがために、人生にはほとんど何も望まない方が、賢くて公正で正しいと思い始める。そして、日々の暮しの壁の向こう側をのぞき見し、槍が折れる音を聞き、ほこりと汗のにおいをかぎ、戦士たちの目の中に、大いなる敗北の炎を見る。しかし、われわれは戦いに行った者の心に宿る喜び、無限の喜びを見ようとはしない。戦う者にとって、勝利も敗北も大切ではない。大切なのは、彼らが良き戦いを戦っている、ということだけなのだ

「そして夢の喪失の第三の、そして最後の症状は安逸である。人生は日曜日の午後になる。われわれは何一つ偉大なことを望まず、われわれが与えたいと思う以上のものを何も要求しなくなる。このようになると、われわれは自分が成熟したのだと思い込む。そして若い年頃の人たちが、人生からまだあれを欲しいこれを欲しいと言っているのを聞くとびっくりする。しかし、実は、心の奥底で、自分は自分の夢のために戦うことをあきらめたのだ、つまり、良き戦いを戦うのを拒否したのだ、とわれわれは知っている」

 

夢を救い出すための唯一の方法は、自分自身に寛容になることだ。自分を罰しようとする試みは、それがどんなささいなものであれ、厳しく対処されなければならない。
自分で自分を責めさいなんでいるのに気づくためには、精神的な苦痛を起こす試み、たとえば、罪悪感、後悔、優柔不断、臆病などを肉体的な苦痛に変換する必要がある。精神的な苦痛を肉体的なものに変えることによって、われわれはそれがどんなにわれわれに害をおよぼしているか悟ることができる」

 

「われわれは、どの道に従うのが最も良いか常に知っている。しかし、われわれは慣れ親しんだ道にしか従おうとしないのだ」

 

「脅迫は、相手に受け入れられなかったならば、何も引き起こすことはできない。良き戦いを戦う時、このことを決して忘れてはいけない。攻撃も逃げるのも、戦いの一部であるということを忘れてはいけないのと同じようにね。戦いの一部でないのは、恐怖によって動けなくなることだ」

 

「耕す者は望みをもって耕し、穀物を打つ者は望みをもって穀物を打つべし」という使徒パウロの手紙の一部だった。

 

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旅をしている。インドにいる。ケニヤにいる。

バスに乗っている。鉄道に乗っている。

窓の外を眺めている。目的地に到着することを待っている。

座って待っている。


どこにいても、何をしていても、何を眺めているときも、

未来への不安や、過去の回想をしている。そんな気がするのだ。

目の前の光景を、世界を、人を、ありのままに受け止められなくなったのはいつからだろうか。
「今」に集中できていない。いつも何かを待っている。

座ってどこかにたどり着くことを待っている。そんな気がしたのだ。

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だからぼくは選んだ。自分の足で歩くことを。この足で歩いてどこかへ到達することを課した。

780キロの巡礼の旅がはじまった。

▼書籍はこちら

星の巡礼 (角川文庫)

パウロ・コエーリョ 角川書店 1998-04-01
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