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【読書の意味】本を読むことは「自分を解明する」工程である

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「暇」とか「退屈」と思える時間が日々の中から姿を消したのはここ数年の話。
時間があれば本を読みたい。今はそうやって過ごしている。幸い仕事のない今は読み放題という贅沢を満喫している。

何冊といったカウントはしていないが、2017年は80~100冊くらい読めたのではないかと思っている。


一応文学部を卒業しているにもかかわらず、本を自発的に読もうという気はまず起こらなかったし、大学までの学生生活を通して図書館で気が乗って本を借りたことなんて数回くらいしか記憶にない。卒業論文を書くために借りたものを含めても、大学卒業までの22年間でまともに読了できた本は多分30冊もないかと思う。

多分本を好きかどうかは、「劇的な一冊に出会ったかどうか」なのかな、と自身の経験からはそう振り返っている。ただこれは今回の記事の趣旨ではないのでまた後日。


読書に求めるのは、一般的に言われるような新しい情報・知識を取り入れるといったアップデート的な意味合いももちろんある。

しかし、個人的に「本を読む」という行為の最大の楽しみは「ある日の自分の解明」であり、それまで解釈できなかった自己の内部で起こった心的事象の「答え合わせ」だと思っている。

語れるほどの破天荒な出来事に見舞われたなどということはないが、「悩み」「葛藤」、または跳び上がってしまうような「喜び」、圧倒的なものに対峙したときの自分の「ちっぽけさ」とか、それゆえの「虚しさ」といった様々な感情。確かにそれは「悩み」であり、「葛藤」であり、「喜び」であり、「虚しさ」である。それは正しいのだが、どこかでジャストミートしていない感じがする。解像度が足りないのだ。

「そうなんだけど、そうじゃなくて…」

そんな感情に出会うたびに、「これは!」と思い、多くは言葉にする前に消えていってしまう抽象的なイメージ。雲のように宙を漂う掴めない観念の正体を、ある本の中に見つけたときに、読む喜びを知った。その体験はまるで暗闇を照らす灯台だった。本を手に取り、貪り読むようになったのはそれからのことだ。

言葉にならなかった観念が言葉として輪郭を見せることは、たとえば自分という存在のすべてを世界地図として描き、そこに新たな島を書き残していくような工程だ。内側で起こる航海による照合作業と言えば、大げさだろうか。

たとえば、多くの心配をよそに一人異国に降り立って、空港を出たときの恐怖に勝る自由の高揚感は星野道夫さんの『旅をする木』に見事に説明され、

低い雲に覆われた日曜日の午後の退屈さと希死観念はパウロ・コエーリョの『ベロニカは死ぬことにした』によって、

畑で育て、やがて収穫し、キッチンで調理し、あの食堂でそれを食べる。すべてが手の届く範囲内で完結する暮らしの幸福を『光の指で触れよ』で描いた池澤夏樹さん、

この世の中に時間をたっぷり所有する代々の富豪と、日がな働いて人生を着々と終わりに近づける無数の労働者が存在する構図はマルクスエンゲルスの『共産党宣言』によって説明されている。


これは同時に、自分にとって「書く」ことの意義にもなっている。きっと一定数が経験を共有している、けれども、それをなんと言っていいのかわからない、という体験や現象に言葉を適切に当ててみたいのだ。まさにそのことによって読者は「救済」される。

「書く」ために、未だ貧しく飢えた脳内に、今や活字中毒の様相を呈する自身は「読む」ことを求めている。

敬愛する書き手パウロ・コエーリョは『パウロ・コエーリョ 巡礼者の告白』の中で、こう述べている。

あまり言われていないことだけど、私の本の成功の一つは、魂の冒険を求める人々の自覚を助けたことだと思っているよ。

作家は読者の経験の触媒者となりうる。

自分のことをもっとわかりたい。もどかしく、それでも直感では大事なことだとわかっているような体験に光を当ててほしい。そう考えれば、読書はまぎれもなく「魂の冒険」なのである。


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