【抜き書き】ジャックが誰だかわかるはず──『死をポケットに入れて』(ブコウスキー)
ベッドに入って部屋の電気を消すのが朝4時。5時間後にけたたましいアラームで飛び起きる。
22時頃に仕事を終えても、夜は長い。
そのタイミングで冷たいビールを飲みたいとは常々思うけれど、自制している。
お酒を飲むと眠たくなったり、気が散漫になって、本が読めなくなるから。
「内臓脂肪を減らす」が謳い文句のノンアル缶で我慢。
平日がそんな感じだから、土日は少し飲みたい。
そんな訳でシルバーウィーク、話題のアサヒ生ビール(マルエフ)とストロングゼロをあけては心地よくなった。
まだ寝るような時間でもないし、読みかけの薄い文庫本を手にとってページをめくる。
チャールズ・ブコウスキー(1920-94)の『死をポケットに入れて』。池袋のブックオフで買った。110円だったから。
2018年に劇場で観た映画『ビューティフル・ボーイ』で、ティモシー・シャラメ演じる薬物依存症の主人公ニックがブコウスキー好きという設定だった。エンドロールでシャラメが朗読したブコウスキーの詩が記憶に残って、それから何冊か読んでいる。
(※Prime Video版には朗読が入っておらず残念…)
大体うんざりしていて不機嫌、酒を飲み、セックスをし、競馬場に行く。喧嘩もする。破天荒極まりなく、やや読むときを選ぶ。
ただ、嵐が去って一人になったとき漏れ出す内省の描写がクセになる。
20年近くありふれた郵便局の労働者として働きながら、創作の手を動かし続けた人生も興味をそそる。
本に戻ると、『死をポケットに入れて』はブコウスキーが最晩年に残した日記風のエッセイ。
巷にあふれる「詩人」について省察した章が鋭い。以下、少し長いけれど引用。
髪の毛を長く伸ばしたジャック、金をせびるジャック、根性の据わったジャック、とんでもなく大声のジャック、何でも屋のジャック、ご婦人方の前を闊歩するジャック、自分のことを天才だと思っているジャック、げろを吐くジャック、幸運な人間をぼろくそに言うジャック、どんどん年老いていくジャック、それでも金をせびるジャック、豆の木の幹を滑り落ちるジャック、その話をしても実際にそんなことはしないジャック、人殺しをうまくやりおおせるジャック、ジャッキを使うジャック、昔話をするジャック、喋って喋って喋りまくるジャック、施しものを求めて手を差し出すジャック、弱い者いじめをするジャック、世の中を恨んで苦々しい思いをしているジャック、コーヒー・ショップのジャック、何が何でも認められたがっているジャック、仕事に一度も就いたことがないジャック、自分の潜在能力を完全に過大評価しているジャック、自分の才能がまったく認められないことを声に上げて激しく抗議し続けるジャック、自分以外のみんなを責めるジャック。
ジャックが誰だかわかるはず、昨日見かけているし、明日も見かけるはず、来週だってお目にかかれる。
何もすることなくただ求めているだけ、ただでほしがっている。
名声を求め、女たちを求め、何もかもすべてを求めている。
豆の木の幹を滑り落ちるジャックでこの世は満ち溢れている。
ほろ酔い状態で気楽に読んでたけど、背筋が伸びた。全て抜き書きした。
自称詩人は、「自分たちのありよう以外、何ひとつとして書くべきことを持ち合わせていない」と。
この回、最初から最後まで切れ味すごい。
「ジャックが誰だかわかるはず」
◇ ◇ ◇
ブコウスキーの力を大いに借りて、久々の更新。
書きながら他の作品も読みたくなって、『ポスト・オフィス』(自伝的処女長編)もポチりました。
以下、映画『ビューティフル・ボーイ』のトレーラー